瀕死のシャープを復活させた戴正呉氏が社長退任へ 後継者に求める条件は?

 シャープの戴正呉会長兼社長は、2019年度中の社長退任を明確にした。2020年度(2020年4月~2021年3月)を初年度とする3カ年の次期中期経営計画の内容を、今後決定する後任社長から発表する考えを示すとともに、「次期中期経営計画は、次期社長が推進するものであり、私はやらない」とした。

 また、次期社長の条件として、「プレッシャーに耐えられること」「広い事業領域の経験があること」「鴻海とのシナジーを生めること」「創業者の意識を自らが持っていること」の4点を挙げ、「まだ、その条件に合致する人は見つかっていない。アドバイザーを使って探している段階にある」と語る。次期中期経営計画がスタートする新年度までに、これらの条件に合致した次期社長を決めることになりそうだ。

シャープの戴正呉会長兼社長に単独インタビュー

 戴会長兼社長は16年8月にシャープの社長に就任した。就任前の15年度には、448億円の営業赤字と2223億円の最終赤字の計上とともに、430億円の債務超過に陥ったことで、16年8月に東証二部へと転落。そうした状況の中でバトンを受け取り経営を指揮した。16年度には早くも営業黒字に転換させただけでなく、2017年12月には、異例ともいえる1年4カ月間の短期間で東証一部に復帰。2017年度には、4年ぶりの通期最終黒字を達成し、シャープを復活させた。

 その後も、Dynabookの買収やASEAN、中国を中心とした海外事業の拡大などに取り組み、成長路線を歩んでいるところだ。シャープ社長就任前は、シャープを買収した鴻海精密工業の副総裁として、約19兆円企業となった同社の成長を支えた。

 戴会長兼社長は、「私がこれまで取り組んできた3年間は、“転換”の時期であり、事業を変革するための期間であった」としながら、「この3年間の中期経営計画は、私が責任をもってやる。一方で、2020年度からの3年間は、次の100年に向けた準備の3年間になる」と発言。さらに、「新たな中期経営計画は、次期社長から発表してもらうことになる。そして、次期中期経営計画は、次期社長がやることになり、私はやらない」と断言した。

 次期社長の条件には、4つの項目をあげ、それぞれについても説明した。

 「シャープは厳しい環境にあり、そのなかで経営を行うプレッシャーに耐えられる人材であること。私が社長に就任したときには、まだ何もやっていないのに、批判の記事がたくさん出た。こうしたプレッシャーに耐えられる人材でなくてはいけない。また、シャープは、白物家電、テレビ、パネル、半導体、太陽光発電と広い領域で事業をしている。単に、担当したというレベルではなく、事業を経験した人材が望ましい。そして、鴻海のいいところをシャープに生かすことができる人材であることも条件になる」とする一方で、4つ目の条件である「創業者の意識を持つ」という点について時間をかけて説明した。

 「日本の企業が強かった30年以上前には、日本の経営者の多くが創業者だっが、創業者が亡くなったり、次の経営者にバトンを渡したりした結果、サラリーマン社長ばかりになってしまった」と指摘し、「休暇を取ることは大切だが、経営者は365日休みがなくて当たり前。経営者には責任がある」とコメント。

 「シャープはグローバルでビジネスをやっている会社であり、日本の祝日だからといって休むわけにはいかない。ASEANの社員がミーティングをしたいといえば、それを優先しなければならない」などと語りながら、「シャープの創業者である早川徳次氏は、土曜日、日曜日をしっかり休むということはしていないはず。それは私も同じ。シャープの責任は全て私が持つ。同様に、私の後継者は、創業者の意識を持った人でなくてはならない」などと語った。

3つの事業グループに組織を再編

 その一方で、戴会長兼社長は、8月1日から事業推進体制を「スマートライフ」「8K Ecosystem」「ICT」の3つの事業グループに組織を再編する。さらに、2019年10月を目標に、AIoT Worldの実現に向けて、4つの事業領域に向けて新体制で取り組むことも明らかにした。

 新たな体制は、AIoT機器の拡大を行う「AIoT機器事業」、会員向けサイトであるCOCORO MEMBERSの拡大や、新たなサービスやソリューションを創出する「COCORO HOMEサービス事業」、小規模事業者をターゲットとしたサービス、ソリューションを展開する「COCORO OFFICEサービス事業」、AIoTプラットフォームの付加価値向上と、パートナー企業とのアライアンスの拡大による「AIoTプラットフォーム事業」の4つだ。

 「堺データセンターが、AIoTのプラットフォームとなり、白物家電やテレビ、健康機器、HEMSといった『つながる家電』と、スマホ、ロボホン、複合機、BIGPADなどのシャープブランドの製品、ドアホンや宅配ボックス、UTM、オフィス用機器といった他社製品が、堺データセンターに接続し、そこで、COCORO OFFICEサービスやCOCORO HOMEサービスを提供するとともに、異業種企業が提供する各種サービスも利用できるようになる」などとした。

 戴会長兼社長は、「シャープは、テレビの会社や家電の会社、あるいは液晶パネルの会社と呼ばれ、それぞれに縦割りの組織になっていた。だが、新たな組織は縦割りでなく、横でつながり、ソリューションを提供することを目指す。すでにシャープの柱となっているAIoT機器事業に加えて、サービス、プラットフォームソリューションといった事業からも売り上げおよび利益を創出することを目指す」とした。

 同社では、スマートライフにおいては、国内と海外のHE(Health Environment=健康および環境)事業を統合。その傘下にB2B事業の拡大のための専任組織を設置する。8K エコシステムでは組織再編も推進するとともに、「COCORO OFFICE サービス事業」の拡大に向けて、ビジネスソリューション事業本部と国内および海外販売会社とのプロジェクト体制を構築するという。

 また、ICTの領域では、AIoT技術を生かした「COCORO LIFE サービス事業」を将来分社化する計画で、それに向け新組織「COCORO プラス準備室」を設置。さらに、AIoTプラットフォームを軸とした他社との協業を加速させるために組織体制を再編し、この分社化も図る。

 また、シャープの課題として人材不足をあげ、今後、人材育成や積極的な採用、M&Aなどに取り組む考えを示した。

 「特に、8K+5Gエコシステムの競争力強化に向けた人材強化が必要だ。私がシャープに来る前に2回に渡って実施された希望退職制度などによって、人材が流出している。社員の教育や新卒者の教育に加えて、他社との協業、M&Aによる人材確保も同時に行う」とし、「8K+5Gエコシステムでは、インプットの8Kカメラから、編集作業を行うソリューション、アウトプットのディスプレイまでをどうやって事業化するかを考えている。しかし、8K+5Gエコシステムは事業領域が幅広く、仮に医療分野で展開するといった場合にも、その分野の専門知識がシャープには足りない。ここは、協業やM&Aで強化しなくてはならない」とした。

 一方で、戴会長兼社長は、テレビ向け大型液晶ディスプレイなどを開発、生産する「堺ディスプレイプロダクツ」(SDP)の子会社化を検討しているが、「いまのSDPでは、IGZOプロセスが使えないが、シャープに取り戻せば、SDPでもIGZOパネルを生産でき、競争力を取り戻すことができる。8K+5Gエコシステムの競争力強化にもつながる」としている。

 戴会長兼社長は、「構造改革はまだ続いている。シャープの改革は道半ばである」とし、「削減や効率化一辺倒の引き算の発想となる『マイナス経営』から、新たな価値や新たな事業を生み出していく足し算の発想である『プラス経営』へとマインドを変えていく必要がある。そうした考え方で構造改革を実行していく」などと語った。

 シャープを復活に導いた戴会長兼社長にとっては、2020年度からスタートする新たな中期経営計画の策定と次期社長の選出、そして、過去3年間に渡って取り組んできた「転換」の総仕上げに取り組む8カ月間となりそうだ。

2019年08月08日 16時30分 公開
  [大河原克行より抜粋

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