シャープ、「巣ごもり」データ化 つながる家電400万台

家電をネットにつなぎ広告など収益機会を創出する
シャープはネットにつながる「IoT家電」のデータ活用に取り組む。
400万台を出荷済みで、食事内容などウェブサイトでは捕捉が難しかった家の中の消費像を探る。企業と消費者を結ぶ基盤となり、家電データを使ったネット広告では効果が3割高かった。
ネット通販と連携して買い物もできるようにし、家電の売り切りから生活サービス企業に転換する。

「スーパーの特売情報があります。キャベツを使ってメンチカツはどうですか?」。
大阪府八尾市にあるシャープのモデルハウス。キッチンに立つと冷蔵庫が話しかけてきた。家電は全てネットに接続。利用者はデータを提供する代わりに音声による会話やスマホからの遠隔操作、ソフトウエア更新による機能のアップデートができる。

シャープは国内でつながる家電の先駆者だ。人工知能(AI)とIoTを掛け合わせた「AIoT家電」を2016年に発売。
親会社である台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の低コスト技術を生かし、オーブンレンジや冷蔵庫、洗濯機など11分野、610機種を展開する。累計出荷台数は400万台を超えた。

AIoT家電は専用アプリ「COCORO HOME(ココロホーム)」でも操作できる。例えば電気調理鍋「ホットクック」は400以上のレシピを用意し、利用者は好みのレシピを本体にダウンロードしてから自動調理する仕組みだ。

ホットクックの場合は出荷した40万台のうち7割がネットと接続しており、利用者の年齢や性別に加え、料理の内容や頻度などの使用履歴がクラウドに蓄積される。
調理データの分析から、「巣ごもりでシナモンロールを自作する人が増えている」といった消費トレンドが分かり、AIが利用者の好みの食材や家族構成などに合わせてメニューを提案している。AIoT事業推進部の中田尋経部長は「これからは他社のサービスとつながるオープン志向のプラットフォームにしていく」と話す。

21年に電通と組んで広告への活用を実験的に始めた。利用者の許諾を得た上で、シャープ傘下のAIoTクラウド(東京・江東)が持つ家電40万台の使用履歴から個人ユーザーにターゲティング広告を流す。例えば「オーブンレンジを週1回以上使用する25~54歳の女性」を対象にフェイスブックなどのSNS(交流サイト)上でレンジ用調理キットの広告を流したところ、クリック率が従来のネット広告と比べて35%増えた。

一見当たり前の結果だが従来のウェブマーケティングでは家庭内の消費の姿までは捕捉できなかった。クリック率の高いユーザーは3~4人向けのレンジを使用し、パンやピザをよく温めるなど洋食を好む傾向があることが分かった。電通データ・テクノロジーセンターの前川駿部長は「消費者に合わせて広告の訴求を変えれば高い効果が得られる」と話す。

ネット広告を巡っては米アップルや米グーグルの間でウェブの閲覧者の行動履歴を追跡する「サードパーティークッキー」を規制する動きが出ている。使用前に許諾を得る家電データはクッキー規制の影響を受けにくく、消費者に高い精度の広告を流す有効な手段となる可能性がある。

シャープは提携先企業を広げて企業と消費者をつなぐ構想を描く。サッポロホールディングス(HD)と組み、マルハニチロなどの食品メーカーが開発したレシピをAIoT家電で調理できるようにした。既にレシピに使う食材の宅配サービスを独自に始めており、将来は献立決めから食材の注文、調理をアプリで完結できるようになる。

調理家電以外でも洗濯機内の洗剤の残りが少なくなると、エディオンなどの電子商取引(EC)で洗剤を注文するサービスを始めた。中田部長は「3~4年後にはデータビジネスが収益段階に入る」と期待する。

シャープは液晶ディスプレーと家電が事業の柱だ。液晶は主要顧客のアップルのiPhoneの販売動向に左右されやすい弱点がある。家電もコモディティー化が進み、価格競争にさらされている。米テスラのように購入後でもソフトウエアをアップデートすることで価値を高める。顧客と直接接点を持つことでマーケティングや新事業開発に生かす狙いもある。

一方で課題も残る。シャープは電通やサッポロHDなどと連携を進めているが、競合の家電メーカーとはオランダの照明大手など一部にとどまる。複数メーカーを使い分ける消費者は多い。IoT家電のユーザー体験を向上させるには利用者を囲い込むのではなく、メーカーの垣根を越えた連携が重要になる。

「キッチンOS」米で先行

米国は1つのアプリで複数の調理家電や電子商取引(EC)を操作できる基盤となる「キッチンOS」の開発や実用化で先行する。その担い手は家電メーカーではなく、新興のソフトウエア企業が中心だ。

代表的な一社が米スタートアップのサイドシェフだ。スマートフォンのアプリで独ボッシュや韓国LG電子など複数の調理家電を操作できる。スマホでレシピを確認してオーブンなどに食材を入れるだけで自動調理する。米アマゾン・ドット・コムとも連携し、必要な食材を生鮮宅配サービス「アマゾンフレッシュ」で購入できる。 キッチンOSはフードテックの一つとして成長が見込める。総務省によると、2023年の世界のあらゆるモノがネットにつながる「IoT」デバイスは341億台と3年で3割強増え、そのうち消費者向けは6割増える見通しだ。

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